海外駐在の極意 No.4【インド】
2018.01.19
インドに2度、通算11年間駐在されたヤマハ発動機の岡本さん。「大変なこともあったが、インド人はウェットで優秀な人が多い。暑い(気候)、熱い(議論)、篤い(学び・志)、厚い(厚かましい)」と、今もインド人との交流を続けているご様子。駐在期間中、「下痢なし、病気なし,休みなし」が自慢で、「インドは第二の故郷、時々帰りたくなる」。難しいとさじを投げてしまう人が多いインドの駐在・人材マネジメントについて、インドの第一人者にその極意をお聞きしました。
- 氏名
- 岡本正史
- 現職
- ヤマハモーターパワープロダクツ株式会社 取締役/経営企画部部長
- 国・都市
- インド ニューデリー(ハリアナ州、UP州、タルミナド州に工場)
- 期間
- 1回目8年(1998年~2006年)、2回目3年(2012年~2015年)
- 会社名
- Yamaha Motor India(製造・販売)、Yamaha Motor Solutions India(IT)
- 役職
- 1回目 CFO(製造・販売会社-財務・経理、ロジスティクス、駐在員総務)、Managing Director(IT会社) 2回目 副社長(製造・販売会社-経営全般、特に人事・労務、法務、駐在員総務)、Director(IT会社)
- 機能
- モーターサイクルの開発・製造(3工場)・販売、IT(グローバル開発)
- 従業員数
- インド全体で約9000人
- 直属上司
- 現地法人MD
- 直属部下
- インド人マネージャー数名 経理はパッケージソフト導入後大幅減員、ITは業務拡大で増員
- 楽しかったこと
- ●あちこちで動物が活躍
今はだいぶ変わってきたが、ニューデリーでも象が道路を歩き(お誕生会に家まで来てくれる)、らくだが荷物を引き、牛が道路わきに寝ていて(人も横に)、熊が芸をしている。スコールで道路がプールのようになると、豚と犬と子供が一緒に泳いでいる。
UP州の工場でも、ベンチにすわっていると後ろから肩をトントンと。振り向いたら何とサル、バナナを取られた。インド駐在は町並みも楽しめる…。
●議論好きなインド人
論理的なインド人とワイワイ、議論しながら1歩1歩前に進むことは有意義である。
時には3歩進んで2歩戻ることも。議論はお互いの理解を深め、確実な行動につながる。
インド人はウェット、大変なときには時間をいとわず一生懸命働いてくれる。
ただし、結論は論理的でないことも…。
●インドカリー(食文化)
インドといえばカリー、本場は美味しい。インド人の家に呼ばれて、家庭毎にスパイスが違うカリーをご馳走になり、インド文化に溶け込むのも面白い。
どうだ、美味しいだろうと聞かれるが、とにかくからい…。
●盛大な結婚式
インド人の結婚式に100回以上出席、皆で踊りまくる。白馬に乗った新郎は新婦の顔を結婚式で初めて見ることも。結婚は親が決めることが多く、カーストが違うケースでは、家族・親族が1人も来ず親代わりもした。カーストの文化は根強くある。
特に、冠婚葬祭には人情味があふれる。昔は日本もそうだったのでは、と思う…。 - 苦労したこと、大変だったこと
- ●とにかく暑い
ニューデリーは45度を越える時期もあり、エアコンが命綱。
1回目の駐在時は停電が頻発(ほとんど毎日停電あり)し、丸一日止まることも。
何より駐在は健康第一…。
●インド、パキスタン戦争の脅威
2002年に緊迫度が高まり、核戦争の危機が勃発。いつミサイルが飛んでくるかの状況下であった。駐在員家族、駐在員を順番に帰国させ、退避勧告が出て最後のJAL便で日本帰国、最初のJAL便でインドに戻る。脅威は依然続いている…。
●労働問題対応
Labourコミッショナーからは、「インド人マネージャーに任せきりにしないことが重要」と言われ、労働協約の交渉(28回、8ヶ月)や日々の労務対応を主導。また、組合リーダーの就業規則違反の対応では危険な目にもあった。ほとんど心理戦の毎日であった…。
●問題は解決されるためにある、と思う
ほとんど毎日起こる問題を、解決していくのは詰め将棋(あるいは知恵の輪)に似た醍醐味がある。
問題はほっておくと、絡まる糸のようにさらに人を巻き込み複雑化する。インド特有の問題の裏側、深層がわかると解決法が見えてくる。問題解決は信頼関係につながる…。 - マネジメント上で成功したこと
- ●経理システムを業務フロー改革と合わせて、3ヶ月でパッケージソフトに切り替えた。
当時のインドでの記録。経理の人員も1/3にした。また、6ヶ月かかっていた本決算を11日に短縮した。インド人の頑張りはすごい。
●インドにIT会社を新規設立。
製造会社のIT部門では来てくれないレベル感の技術者がグローバルな仕事に集まってくれた。
英語が達者で技術力も高いこともあり、グループの海外拠点へのシステム導入は急拡大した。
しかし、インド人は優秀ゆえ、仕事がないとやめる。プロジェクト毎に上下しがちな業務量を一定程度は常に確保しておく必要がある。インドのITレベルは高い。
●インドでは人脈が大切、特にいざという時に専門分野での的確なサポートが得られること。
UP州の警察TOP、組合の上部団体のメンバーには、労務問題でのサポートをいただいた。
内部監査では限界があることも外部調査Agentではさらにいろいろなことが判明する。
人事コンサル会社には得意分野毎に流動性が高いマネージャーの採用サポート、弁護士には休日を問わず法的なサポートを・・・、等々。インド流のお付き合いも大事。
●女性向けスクーターでは、エンジン組立および車体組立の新ラインにすべて女性を新規採用。
男性職場の横に若い女性のみが200人並ぶ製造ラインは華やかで、マスコミにも評判であった。
最初は戸惑いもあったと思うが、マスコミのインタビューにも堂々と応対するようになり、女性活躍の場づくりにも貢献できた。開発、販売店、宣伝も全て女性中心。あわせてセクハラ防止強化も…。
●日本人駐在員が増加し、駐在員に関する雑多な業務が拡大。特に生活に関する問題が多くなり、現地採用にて日本人女性を3工場で4名採用し、インド人ではわからない日本的なサポートができた。
女性ならではの対応で特に年配の駐在員からは感謝。 - マネジメント上で失敗したこと
- ●労務のヘッドのインド人が、労働協約の交渉中に他社に高報酬で引き抜かれた。もっと早く気づくべきであった。しかし、最後は日本人だけで押さえ込む。
いなくなると困る人ほど、要注意である。
●失敗を失敗で終わることなく、あきらめずに前進、成功するまでやり抜くのがインド…。 - 成功するための鍵となる能力・スキル
- ●異文化での適応力
日本と異なる文化と価値観を理解し、適切に対応できる能力。
「当たり前」「常識」が違う中で、HowよりもWhyを理解して行動、チャレンジすることが大切。
まずはインドを好きになることからです…。
●コミュニケーション力
海外での異なる発想の相手と、対等に交渉や説得ができる能力。
インド人も英語は第2外国語、Body Language含めて自分の意思を相手に伝えるコミュニケーションスキルを磨くことが大切。言いたいことを伝えるだけでなく、伝わっているか…。
●国際的なマネジメント力
異なる国で文化も違う自己主張の強い人々を、動機付けし、問題解決ができる能力。
インドにおいても絡まる糸を解きほぐすスピード感が大切。あきらめない…。
●現地人材の育成(SPAN OF CONTROL)
現地人材の育成は駐在員の大事な役割の一つ。成長の機会を与え、その人生に責任を持つ覚悟で面倒をみることが大切。自分が本当にコントロールできるのはせいぜい数名とも言われる。
インド人の成長、活躍は仕事のOutputに直結する。 - 現地のマネジメント
- ●上は上らしく
インド人はカーストに慣れている。上は上らしくふるまわないと自らを落としめる結果に。
だいたい間違える。(例:社長が率先垂範のつもりでごみを拾う、社長=掃除人となる)。
この方に「仕えている」という「誇り」を持たせる。
●専門性の高さ
さすが、本社からきた日本人!などと一目をおかれること。あうんの呼吸は通じず、部下に動いてもらうためには、専門性の高さが不可欠。
●「変革」をおこす
業務がよどむと不正がおきる。継続して同じことをさせず、担当替えや仕組みを改善させる。
日本人が率先して改革し、Leadershipを発揮すること。
●インドで特に注意していたこと
・No Problemはプロブレム (自分にとって問題ない、ということが多いと感じる)
・進捗のモニタリングは必ず実行 (見られている→認められている→Comfortable)
・気の利いた人ほど気を付ける (言葉でのコミュニケーションによる確認が大事)
・カーストより実力・能力 (実力主義で行くべし)
・あせらず、あきらめず、あてにせず (インド名言集) - これから海外駐在する人が準備しておくべきこと
- ●心(志、プロ意識)、技(専門性)、体(健康、体力)
●異文化理解、危機管理
赴任して、短期間で言葉の壁、意識の壁、文化の壁を取り除く
日本特有な文化は、海外では役に立たない
例)アウンの呼吸、暗黙の了解、以心伝心、遠慮と察し、一を聞いて十を知る
(日本人はすごい、と思う)
自分、家族の命は自分で守る気概と危機管理も含めて
●語学
インドではビジネスレベルの英語は必須。マネージャー以上の英語力は高い(英国系)
英語を英語でわかりやすく説明してくれる優秀な若手インド人と仲良くすると上達は早い
(注)インドでは飲み屋で覚える、ところは無いので…。 - 次の駐在はどこがいいか?
- またインドもいいな、と思いますが、インドの占いでは2回目までの居住しかありませんでした。